リンクローカルアドレスとは? DHCPサーバとの関係からその仕組みについて解説
公開日 : 2025/01/22
リンクローカルアドレスとは、主にDHCPサーバが機能しない環境でローカル接続を維持するために使われるIPアドレスです。この記事では、その役割や仕組みは何か、DHCPサーバとはどのように関係するのか、ビジネスシーンでどのように活用されるのかなどについて解説します。
リンクローカルアドレスとは?
DHCPサーバとは何か
DHCPサーバとは、ネットワーク内のデバイスに自動的にIPアドレスを割り当てるサーバのことです。インターネット利用でデータをやり取りするための住所として使われるIPアドレスの設定は、従来手動で行われていました。DHCPサーバにより、ネットワークに接続されたデバイスは自動的にIPアドレスを取得し、手動による手間を削減してスムーズに通信をはじめられます。
DHCP(Dynamic Host Configuration Protocol:動的ホスト構成プログラム)は、デバイスがネットワークに接続する際に必要な情報(IPアドレス、サブネットマスク、デフォルトゲートウェイ、DNSサーバなど)を動的に提供するプロトコル(データを処理するための一連の手順)です。これにより、IT管理者は個々のデバイスにアドレスを割り当てる手間を省き、ネットワーク管理の効率化が図れます。
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DHCPサーバは現代のネットワーク運用において必須の技術であり、IPアドレスの競合や管理ミスを防ぎ、ネットワークの安定性を高めます。
リンクローカルアドレスが役立つケースとは?
通常、ネットワーク内のデバイスはDHCPサーバを通じてIPアドレスを取得します。しかし、DHCPサーバが利用できない場合、デバイスはリンクローカルアドレスを使用してローカルネットワーク内での基本的な通信を行うことができます。
たとえばDHCPサーバが一時的にダウンしてしまった場合でも、デバイス同士はリンクローカルアドレスを使って最低限の通信を維持できます。これにより、DHCPサーバが復旧するまでの間もデバイス同士での連携が可能となります。
具体的に、リンクローカルアドレスが役立つ場面には以下のようなものがあります。
【1】DHCPサーバが存在しないケース
小規模なオフィスや一時的なネットワークなどでDHCPサーバを導入しない場合、リンクローカルアドレスが役立ちます。このような環境では、ネットワーク設定を簡素化するために、リンクローカルアドレスを用いてデバイス間で通信が行われます。たとえば、ネットワークに接続されたプリンタや共有ドライブなど、必要最低限のデバイスを使用する場合などが例として挙げられます。
【2】ネットワークトラブルが発生したケース
ネットワークでトラブルが発生し、DHCPサーバが応答しない状況でも、リンクローカルアドレスを使って一時的に通信を続けることができます。DHCPサーバが使えなくてもデバイスはリンクローカルアドレスを使用して、ネットワーク内での基本的な操作やリソースの共有を行えるため、重大なサービス停止を回避できます。また、リンクローカルアドレスでデバイス同士が通信できるかどうかを確認することは、ネットワークケーブルやハードウェアの故障の有無を診断する手助けとなります。
【3】デバイス同士が直接接続するケース
ネットワーク機器やケーブルを使わずに、2台のデバイスを直接接続する場合、リンクローカルアドレスが役立ちます。例えば、ネットワークに接続されていない環境でパソコン同士やパソコンとプリンタを直接接続して簡単なデータ共有や印刷を行いたいとき、リンクローカルアドレスにより手軽に通信を開始することができます。このようなケースでは、DHCPサーバがなくても、デバイス同士が互いに認識し合い、即座に通信可能になります。
リンクローカルアドレスの仕組みを3ステップで紹介
ここからは、リンクローカルアドレスが具体的にどのような仕組みでデバイス間の通信を実現するのか見ていくね。
ありがとうございます!
3つのステップで見ていくよ!
1.アドレス生成
デバイスは「169.254.xxx.xxx(IPv4)」や「fe80::/64(IPv6)」の範囲からランダムにIPアドレスを生成します。「169.254.xxx.xxx」は、IPv4環境で使用されるリンクローカルアドレスの範囲で、具体的には、「169.254.0.0~169.254.255.255」の範囲に属するIPアドレスが割り当てられます。DHCPサーバが存在しない場合、デバイスは自動でこの範囲のIPアドレスを生成します。この仕組みを「APIPA (Automatic Private IP Addressing)」もしくは「AutoIP」といいます。
一方、「fe80::/64」は、IPv6環境で使用されるリンクローカルアドレスです。IPv6はIPv4と異なるネットワークプロトコルであり、アドレスのフォーマットや仕組みが異なります。IPv6では、リンクローカルアドレスが「fe80:0:0:0:」ではじまる範囲内のアドレスが、ネットワークに接続時にデバイスに自動的に割り当てられます。
リンクローカルアドレスは、インターネットに直接接続することはできず、使われる領域はあくまでローカルネットワーク内での通信に限られます。ただし、IPv6では、全てのインターフェースにリンクローカルアドレスが割り当てられるため、ローカルな通信に加え、ほかのIPv6アドレスを設定する際の基盤としても使われます。
2.重複確認
リンクローカルアドレスが生成されたら、既に他のデバイスで使われていないか、すなわちネットワーク内に同じアドレスが存在するかどうかを確かめます。存在しなければ、そのアドレスを自身のアドレスとして使用しはじめます。
IPv4では、「ARP(Address Resolution Protocol)」というプロトコルを使ってネットワーク内で重複するアドレスがないかを確認します。一方、IPv6では、「NDP(Neighbor Discovery Protocol)」を使って同様に重複確認を行います。
3.通信の開始
アドレスが決まると、同じネットワーク内の他のデバイスと通信が可能になります。このプロセスは完全に自動化されており、ユーザーが手動で何か作業をする必要はありません。
ビジネスシーンでのリンクローカルアドレスの4つの活躍パターン
リンクローカルアドレスは、企業や小規模事業者において具体的にどのように活用されるのかも説明しておくね。
確かに気になります…!
4つのパターンで具体的に見ていくよ。
ネットワークトラブル時の迅速な対応
ハードウェア・ソフトウェアの不具合や電源トラブルなどさまざまな原因により、企業のネットワーク環境では、DHCPサーバが故障したり、ネットワーク設定に問題が生じたりすることがあります。こうした状況下でも、リンクローカルアドレスが自動的に割り当てられることで、デバイス同士が最低限の通信を維持することができます。その結果、たとえばプリンタやファイル共有サーバなどのローカルリソースに引き続きアクセスできるため、ネットワーク復旧までの間も業務を完全に停止させることなく対応できます。
コストや手間の削減
小規模オフィスや一時的なイベントネットワークでは、DHCPサーバを導入するコストや手間をかけたくない場合もあります。リンクローカルアドレスは、そのようなシンプルなネットワーク構成で効果的に活用されます。たとえば、出張先での会議や展示会でITデバイスを利用する際、リンクローカルアドレスを活用することで設定を大幅に簡素化でき、スムーズな通信が可能になります。
デバイス間の直接接続における利用
ビジネスでは、パソコンとプリンタ、またはデータ共有を行うパソコン同士を直接接続することが求められることがあります。この場合、リンクローカルアドレスを使用することで、ネットワークインフラが整備されていない状況でも、デバイス間で即座に通信を開始できます。特にインターネット接続が不要なデバイス同士の通信や、ローカルファイルの交換には効果的です。
フィールドワークや遠隔地での利用
フィールドワークや遠隔地でのプロジェクトにおいては、インターネット接続が不安定または利用できないことがあります。このような状況でも、リンクローカルアドレスを使用して現地でのデバイス間通信が可能です。たとえば、研究機器やセンサー同士のデータ共有、またはオフラインでのリモート作業時に、リンクローカルアドレスが役立ちます。
小規模ビジネスでのDHCP導入には『HPE Networking Instant On』を
リンクローカルアドレスは、ローカルなネットワーク環境で用いられる特殊なIPアドレスで、DHCPサーバなしで通信を維持するにあたって、重要な役割を果たします。ネットワークの安定性が求められる現代のビジネスにおいて、リンクローカルアドレスの理解と活用は、業務の継続性を確保するために欠かせない要素となっています。
『HPE Networking Instant On』は、小規模なビジネス向けに簡単に設定できるネットワークソリューションを提供しています。この製品ラインには、IPv4/IPv6の両方に対応したDHCP機能搭載の高性能スマート管理型スイッチが含まれており、スモールビジネスであっても手間やコストを削減しながらDHCPを利用可能です。また、DHCP SNOOPING(スヌーピング)機能により、DHCPサーバ/クライアント間のやり取りの盗聴やDoS攻撃を防ぐことができるシリーズも存在します。
『HPE Networking Instant On』はモバイルアプリやクラウド管理をサポートしており、ネットワークの状態や問題を迅速に把握し、適切な対応が取れるよう設計されています。ビジネスにおいて、ネットワークの安定性と信頼性は非常に重要です。そして、HPEのネットワーク製品はその基盤を支える助けとなるでしょう。
通信環境についてお悩みの場合は、ぜひお問い合わせください。御社のお悩みを解消いたします。
先輩! また質問があるのですが…。
大丈夫よ! 今回はどんな用語の説明をすれば良い?
「リンクローカルアドレス」という用語です。以前説明頂いたと思うのですが、もっと詳しく知りたいと思いました。
確かに以前説明したわね。
▶ユニキャストアドレスとは? 1対1通信の基本となるIPアドレスを解説
でも、実際はもっと奥深いものだから、もっと丁寧に説明するね。
ありがとうございます!
リンクローカルアドレスはIPアドレスの一種で、DHCPサーバが存在しない状況でもネットワーク内のデバイスが互いに通信できるよう、自動的にデバイスに割り当てられるアドレスよ。主に小規模なローカルネットワークや、一時的なネットワークで利用されるわ。
▶DHCPの仕組みをわかりやすく解説!通信シーケンスやトラブルについても紹介
DHCPについては、以前教えて頂きましたね。
いい機会だから、もう一度DHCPサーバについて知っておこうね。